カウンターストレインについて

    カウンターストレイン(Counterstrain)は、1950年代にアメリカのオステオパシー医師であるローレンス・ジョーンズ(Lawrence H. Jones, D.O.)によって開発されました。これは、筋肉や結合組織の緊張と痛みを和らげるための治療法です。この治療は、患者に痛みを伴わずに症状を緩和できる特別な技術として、現在も多くの手技療法家や理学療法士に利用されています。これから、カウンターストレインが生まれた背景や、ジョーンズ医師の発見、そして治療法の理論について詳しく説明します。

    開発者:ローレンス・ジョーンズ D.O.

    ローレンス・ジョーンズはアメリカのオステオパシー医師(Doctor of Osteopathy, D.O.)で、筋骨格系の治療を専門とした治療家でした。彼は徒手療法を多くの患者に提供しており、当時、一般的だった方法として、筋肉を直接操作するストレッチングや押圧による矯正法を実践していました。しかし、これらの従来の方法では、特に慢性の痛みを持つ患者に対する十分な効果が得られないことが多く、ジョーンズ医師は新しいアプローチを模索していました。

    カウンターストレインの偶然の発見

    1955年、ジョーンズ医師は、長年にわたり慢性腰痛に悩まされていたある患者を治療していました。この患者は、寝ているときや座っているときも痛みを感じ、日常生活に支障をきたすほどでした。ジョーンズ医師は、この患者をなんとか楽にしようと、ベッドに寝かせた状態でいくつかの体勢を試しました。そして、ある特定の姿勢にしたとき、患者が「この姿勢なら痛みがほとんどない」と感じたのです。その状態でしばらく体を保持し、元の姿勢に戻したところ、患者の痛みが劇的に軽減されました。

    この経験をきっかけにジョーンズ医師は、筋肉や関節を「楽な位置」に保持することで痛みが緩和されるメカニズムについて研究を開始しました。彼は、さまざまな患者でこの方法を試行し、痛みや緊張が緩和する効果を繰り返し確認することで、カウンターストレインの基本理論と技術を構築しました。

    開発の背景

    カウンターストレインが開発された1950年代は、筋骨格系の治療法において新たな視点が求められていた時期でした。従来の徒手療法や整骨療法は、筋肉や関節の緊張を「直接的」に解放することが多く、患者に痛みや不快感を伴うことが一般的でした。このため、患者の負担が大きく、特に慢性的な痛みに苦しむ人々にとって、こうした治療はかえってストレスになることもありました。

    ジョーンズ医師のカウンターストレインは、こうした従来の治療法とは異なり、筋肉や関節の緊張を「間接的」に緩和するアプローチです。これは、体の保護反応として生じる「筋緊張反射」を利用して、緊張の原因を取り除くことを目的としています。ジョーンズ医師は、このアプローチによって、従来の治療法の限界を克服し、患者に痛みを伴わない効果的な治療法を提供することを目指しました。

    カウンターストレインの理論的基盤

    カウンターストレインは、以下の理論的背景に基づいています。

    緊張反射とリセット

    筋肉には、緊張や伸びを感知する「筋紡錘(きんぼうすい)」という受容器が存在します。筋紡錘は、筋肉が伸ばされすぎたり、過度に緊張すると、それを感知して筋肉を収縮させ、体を保護しようとする反射的な作用を持ちます。痛みや過緊張が発生している筋肉に対して、カウンターストレインを行うことで、筋紡錘の過剰な緊張反射を「リセット」し、筋肉を弛緩状態に戻します。

    トリガーポイントと圧痛点

    カウンターストレインでは、筋肉内の圧痛点(触れると痛みを感じる特定のポイント)を重視します。ジョーンズ医師は、痛みや緊張が集中するこれらのポイントに対して、体を特定の姿勢に保持することで、脳が筋肉の緊張を解除することを発見しました。圧痛点を緩和するために、体を楽な位置に置くことが重要であり、この方法によってトリガーポイントの痛みも軽減されます。

    リラクゼーションと副交感神経の促進

    カウンターストレインのポジショニングは、筋肉の緊張を緩和するだけでなく、自律神経系にも影響を与えます。体をリラックスした位置に保持することで、副交感神経が活性化し、全身のリラクゼーション効果が促進されます。これにより、慢性的な緊張が解放され、精神的なリラックスも得られます。

    カウンターストレインの具体的な施術手順

    カウンターストレインの施術は、以下のように行われます。

    トリガーポイントの発見

    患者の体を触診し、筋肉や関節の中で特に緊張や痛みが強い部分、つまり圧痛点を探し出します。これが治療の対象となります。

    楽な位置のポジショニング

    圧痛点が特定されたら、その部位が最もリラックスする位置に体を調整します。例えば、腰痛であれば骨盤を少し傾ける、肩の痛みなら肩を軽く回旋させるといった方法で、痛みを軽減できる体勢を探します。

    90秒間の保持

    最も楽な位置を見つけたら、その状態で約90秒間保持します。この間、筋肉や筋膜の緊張が徐々に解除されていき、筋紡錘の過剰な反応がリセットされます。

    ゆっくりと元の姿勢に戻す

    90秒が経過したら、筋肉や関節をゆっくりと元の位置に戻します。急激に戻すと再び緊張が生じる可能性があるため、慎重に行います。

    再評価

    最後に、圧痛点の痛みや筋緊張の程度を再評価します。改善がみられない場合は、他のトリガーポイントを施術することもあります。

    カウンターストレインの応用範囲と効果

    カウンターストレインは、以下のような多くの症状に適用され、効果があるとされています:

    慢性痛の緩和:腰痛、肩こり、頸部痛など、慢性的な筋肉の痛みの緩和に有効です。

    筋膜性疼痛症候群(MPS):筋膜の緊張を解放し、痛みを軽減します。

    筋緊張性頭痛:首や肩の筋肉をリラックスさせ、緊張性頭痛を和らげます。

    スポーツ障害:筋肉や関節にかかる過度の負荷を軽減し、スポーツ後の回復を助けます。

    カウンターストレインの意義

    カウンターストレインは、患者に負担をかけず、リラクゼーション効果も期待できる治療法として高く評価されています。この技法は、痛みや緊張の原因を根本から解決するだけでなく、体と心のリラクゼーションを同時に促進するため、患者の全体的な健康を改善する手段として、現代の徒手療法や整骨医療の分野でも多くの支持を集めています。

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