からだが示す“奥行き”を知ったとき、すべてがつながりはじめた ~創業物語⑪~

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からだが示す奥行きを知ったとき、すべてがつながりはじめた

新型コロナウイルスのパンデミックは、世界を一変させた。

その影響は3年以上にわたり、2025年の今も完全な終息には至っていない。

だが、久保にとってこの世界的な感染症は、単なる災厄ではなかった。

それは、これまで追い求めてきた治療法をさらに深く、そして本質的に進化させる転機となる。

久保自身、治療家である以上、感染予防には人一倍の注意を払っていた。

マスクの着用、手指消毒、院内の換気――できることはすべて徹底し、幸運にもパンデミック初期の3年間、感染することはなかった。

だが、世の中がようやく日常を取り戻しはじめた20242月。

久保は、思わぬ形でコロナの洗礼を受けることになる。

とあるセミナーに参加した数日後、発熱。

インフルエンザかと思って近所のクリニックで検査を受けたところ、まさかの新型コロナ陽性だった。

希望していた抗ウイルス薬は処方されず、解熱鎮痛剤のみ。

3日で熱は下がったものの、その後に訪れたのは、想像を超える苦痛だった。

上半身を襲う、原因不明の神経痛――

腕を動かしても痛む、寝返りを打っても痛む。

この状態が2週間続き、やがて強烈な倦怠感、寒気、胃腸の不調といった後遺症が襲ってきた。

「これは、一体なんなんだ……

久保は別の病院を受診し、様々な検査を受けた。

医師からも「ここまで長く続く症状は珍しい」と言われた。

明らかに、単なる風邪や一般的な後遺症の域を超えていた。

その久保を心配してくれたのが、同じセミナーで出会ったカウンセラーの岡部明美さんだった。

あけみちゃんの愛称で親しまれる彼女は、カウンセラー養成の世界では知る人ぞ知る存在である。

「そろそろ、学びにいらっしゃい」

そう優しく声をかけてくれた。

コロナ前にも一度ご縁はあったが、参加できずにいた。

今回ばかりは、その言葉に導かれるように、彼女が主催する7ヶ月間のカウンセリング研修に参加することを決めた。

はじめは、「心の学び」と「からだの治療」にどうつながりがあるのか、正直よくわからなかった。

だが、学んでいくうちに、久保の中にある何かが解けていった。

「ひとの心を癒すには、まず自分自身がクリアでないと難しい」

この言葉に深く頷く自分がいた。

カウンセリングの学びが進むにつれ、徐々に久保のからだにも変化が訪れた。

あれほどしつこかった後遺症が、年末にはほぼ解消していた。

そして、それ以上に大きな成果があった。

久保が長年悩んできた「一致しない治療反応」の謎が、ふとした瞬間に解き明かされたのだ。

心の世界では「健全度」という概念がある。

表面的に同じような言動や感情であっても、内側の健全さのレベルによって、まったく異なる意味を持つ。

それをからだに当てはめて考えてみたとき――

「からだにも健全度があるのではないか」と直感した。

つまり、

同じ部位に対して同じ検査を行ったとしても、

・健全な状態のときに出る反応と、

・不健全な状態のときに出る反応は違う。

この二重構造が一致しない理由だったのだ。

さらに久保は仮説を深めていった。

たとえば「10段階でからだの良し悪しを評価する」ようなスケールがあるとしても、

実はその背後に「もうひとつの10段階=健全度による奥行き」が存在しているのではないか。

つまり、10×10100のマトリクス。

そしてそれが身体の3軸方向(前後・左右・上下)に展開しているとしたら、

人間のからだは複雑に見えるのではなく、そもそも構造的に多次元的だったのだ。

この概念が腑に落ちた瞬間、久保の中でパズルのピースがすべてはまり始めた。

施術における迷いが減った。

テストの結果が示す本当の意味が読めるようになった。

そして、治療の精度と再現性が劇的に高まった。

これは単なる「回復」ではない。

久保にとって、それは――「進化」だった。

かつて頭痛に苦しんでいた少年は、長い冒険の果てに、

自らの体験と葛藤をすべて、治療理論の核へと変えていった。

心とからだは分けられないという真理に辿り着いた今、

久保はようやく、真のスタート地点に立ったと感じていた。

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