宝を持って帰還 ~創業物語⑫~
――治せない症状なんて、そう多くはない――
からだの仕組みの真理を垣間見た久保にとって、
その先に待っていた使命は、単に「治すこと」ではなかった。
それは、“遺すこと”。
再現性のある治療法。
それは、たったひとりの天才治療家が持つ属人的な技術ではなく、
誰もが、一定の訓練によって身につけることのできる“しくみ”でなければならない。
日本を見渡せば、久保よりも圧倒的に優れた治療家はたくさんいる。
だが、その多くが口伝や感覚に頼る、暗黙知のまま終わっている。
「記述されない知」は、時代とともに消えていく。

久保はそう考えた。
自身がようやく辿り着いたこの知見――
からだには構造的なパターンがあり、健全度による多次元的な評価軸が存在するということ。
この再現性ある「仕組み」を“理論”としてまとめ、そして“方法”として残すこと。
それが今後、久保が担うべき仕事なのだと強く感じた。
とはいえ、どれほど優れた治療理論を抱えていても、
それが広まるためには、まず目の前の患者を確実に良くするという実績が欠かせない。
そして、その実績を形として社会に示すためには、
あしたば整骨院が「人を本当に良くする治療院」であることを、
数で、声で、結果で証明しなければならない。
だから久保は今日も現場に立ち続ける。
まず手始めに、小さな冊子を作った。
――これが本書だ。

この冊子が、かつての自分のように
「誰にもわかってもらえない症状」に苦しむ誰かの手に、ほんの少しでも届くことを願ってやまない。
もちろん、すべてをこの紙面で語ることはできない。
からだの仕組みのすべてを書くには、あまりにも情報量が多すぎる。
それでも、ほんの数ページでも、あなたの悩みに寄り添う言葉があればと思っている。
そして、どうかお願いしたい。
「誰にも治せない」と、あきらめないでほしい。
もちろん、残念ながら今の医療や手技では治らない症状もある。
だが、多くの症状は、根治ではなくても“改善”という形で救うことができる。
本当に“治る”というのは、もしかしたら“生きやすくなる”ということかもしれない。
動きやすくなる、眠れるようになる、人との関わりが楽になる、
痛みが減る、気持ちが落ち着く――
そうした「日常が楽になる」という形の“回復”は、実に多くの人に届く可能性がある。
久保が目指すのは、そうした“生きやすさ”を科学し、再現し、分かち合うこと。
だからこそ、今日も久保は治療の現場に立つ。
患者の声に耳を傾け、からだからの微細なサインを読み取る。
からだの悩みが、ひとつでも減っていくこと。
それが、久保にとっての「宝」であり、
この道を歩き続ける「報酬」そのものである。
――この章を読むあなたにも、
ひとつでも、光が届くことを願って。




