冒険への呼びかけ ~創業までの物語②~

目次

「治してくれる人」との出会い  ~冒険への呼びかけ~

骨が折れてるんじゃないか…… ~冒険への呼びかけ~

それは、小学5年の秋。
落ち葉が風に舞い始めた頃のことだった。

掃除の時間、下足場のすのこを雑巾がけしていた久保は、ふいに足を滑らせ、右足首を強くひねった。

最初は「またか」と思った。これまでも、関節の痛みや重だるさには慣れていた。

だが、この日は違った。

足首はすぐに腫れ上がり、体重をかけるたびに鋭い痛みが走る。

帰り道、片道15分の通学路を、足を引きずりながら1時間以上かけて歩いた。

何とか自宅にたどり着いたものの、腫れはひどくなる一方だった。

「もしかして、骨が折れてるんじゃないか……」

いつもなら痛みは黙ってやり過ごす久保だったが、このときばかりは強い不安に襲われていた。

初めての整骨院 ~冒険への呼びかけ~

冒険への呼びかけ 久保少年の中には、まだ言葉にならない何かが芽生え始めた

その日の夕方、母が連れて行ってくれたのは、近所にある街の整骨院だった。

病院ではない――それがどんな場所なのか、久保は知らなかった。

整骨院という言葉自体、彼にとっては初耳だった。

木の香りがふんわりと漂い、やわらかな照明が迎えてくれるその空間は、彼が知る「医療機関」とはどこか違っていた。

ソファに座って問診表を記入しながら、久保は言いようのない緊張を感じていた。

心の中には、いつもの疑念がよぎっていた。

――また、「気のせい」と言われるんじゃないか。

――「骨に異常がなければ問題なし」と、片づけられるんじゃないか。

これまで、さまざまな不調を抱えながらも、病院へ通うことはほとんどなかった。

「どうせ原因はわからない」

「言っても仕方がない」

いつしかそんな思いが先に立つようになっていたからだ。

だが、この日だけは、違っていた。

寄り添う温もり、目覚めの瞬間 ~冒険への呼びかけ~

現れた施術者は、久保の目を見て、穏やかに微笑んだ。

「今日はよく来たね。ちょっと診せてね」

やわらかい手が、腫れた足首にそっと触れる。

皮膚の熱、腫れの広がり、可動域をていねいに確かめながら、言葉をかけてくれる。

「骨は折れてないよ。靭帯がちょっと伸びてるだけだね」

その一言を聞いたとき、久保の胸の奥に張り詰めていた糸が、ふっと緩んだ。

“見てもらえた”“わかってもらえた”――それだけで、身体が少し軽くなるような気がした。

包帯でしっかり固定され、氷で冷やしながらの処置。

施術者は、今後の過ごし方や注意点まで、母と一緒にわかりやすく説明してくれた。

それは、これまで久保が経験したことのない「寄り添い」だった。

治療が終わる頃には、久保の心の中に、不思議な灯りがともっていた。

「身体が治る」って、こんなふうに感じられるものなんだ。

「触れることで、人の痛みがやわらぐ」って、こんなに尊いことなんだ。

機械の音も、白く冷たい診察室もない。

でもそこには、「人が人に向き合う」という温もりがあった。

帰り道、まだ腫れの残る足を引きずりながらも、久保の心は軽かった。

施術者のまなざしと、包帯の温かさが、何度も頭の中によみがえった。

「もし、自分があの人のように“治す側”になれたら――」

そんな思いが、初めて芽生えた。

もちろん、足首の痛みはしだいにおさまっていった。

だが、それとは対照的に、以前から続く関節の違和感や目の奥の痛みは、相変わらず残ったままだった。

「全部が治ったわけじゃない。でも、“良くなる”ことは、たしかにある」

子どもながらに、彼はその手応えを感じていた。

“適切な処置”を受けることの大切さ――それを、初めて知った瞬間だった。

まだ言葉にはできなかったが、久保の中で何かが変わり始めていた。

それは、人生を方向づける最初の呼びかけだった。

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